膜面は非常に柔軟な構造要素であり、一般の剛構造には見られない、いくつかの特徴的な構造応答がある。そのひとつは、リンクル(しわ)の発生であり、近年有限要素法を用いたリンクル解析に関して多くの研究報告が寄せられている。リンクルの他、膜面に特徴的なもうひとつ興味深い構造応答として、kinking(深い折目)の発生がある。本研究は発生機構が殆ど研究されていないkinkingについて、有限要素法の立場から解明を試みるものである。昨年度は、kinking発生に時間依存性が大きく関わっているとの観点に立ち、独自開発コードにダイナミクス解析のルーチンを組み込み、動解析を行える環境を整え、数値発散を発生することなく膜面のダイナミクスが解析できることを実証した。しかしながら、ダイナミクス解析の妥当性を検討するには至らず、物理実験との比較が課題として残った。そのため、本年度はkinkingが支配的となる膜構造物として、パラシュートの開傘現象、および現在ISAS/JAXAで開発が進められている次世代型圧力気球の二つを解析対象として物理実験との比較を試みた。さらにパラシュートの開傘現象に関しては、初年度に開発した接触アルゴリズムを適用すると共に、新たに膜面のモデル化として「多粒子系モデル」に基づいた数値解析コードも開発し、有限要素モデルと合わせて、解析結果の妥当性を検討した。その結果、上記二つの解析対象ともに、数値解析結果と物理実験結果の双方で良好な一致をみることができ、kinking現象の把握に本研究で開発したコードの妥当性を確認することができた。以上より、本年度の研究では一定の成果を収めることができたものの、当初計画において予定していた、メッシュフリー法の適用、および群論に基づいたkinking現象の解明には至らず、これらの課題については今後も継続して研究を行っていく予定である.
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