近年、金型製造においては、焼入れ鋼や超硬合金に対して穴径0.1mm、深さ1mm穴を高精度に多数個開けるという要求がある。この場合、レーザ加工、電子ビーム加工および放電加工などの特殊加工が適応されるが、その特性上、加工速度を向上させると、被加工面の熱影響層が厚くなり、穴精度も悪化する。そのため、生産効率と加工精度を両立するのが困難である。これに対し、ドリル加工で熱処理済みの金型鋼に直接穴を開ければ、加工速度と加工精度が両立する。ところが中〜大径ドリル加工に比べて穴径1mm下の小径ドリル加工では、切削速度の不足、切屑排出性の悪さやドリル剛性不足による折損の問題が、飛躍的に高まる。当然ながら、高硬度難削材に対する加工では、この問題はより顕著になる。本研究では、この問題を解決するための方法として、ドリル工具を超音波振動させながら切削穴あけ加工する方法に注目する。ドリル先端を軸方向に超音波振動させることによって、切屑排出性の向上や切削抵抗の低減が期待できる。本年度は、第一段階としてφ1のドリルを用いて、超音波振動援用加工の特性を明らかにすることで、小径ドリル加工への適用可能性を検討した。焼き入れしたダイス鋼(HRc60程度)に対して、深さ2mm穴あけ加工を行った結果、軸方向切削抵抗は超音波振動を援用することで5〜10%程度低下した。また、その効果は加工回数が進み摩耗が進行するほど、また加工深さが深いほど顕著になった。すなわち、過酷な加工条件ほど超音波振動の効果が高まることがわかった。また、振動援用加工は切れ刃の食い込みを改善するため、特に穴入り口部の幾何精度や表面粗さが良好になることが顕微鏡観察の結果明らかになった。
|