多数のカーボンナノチューブ(CNT)からなるCNT薄膜は、マイクロニュートンレベルの荷重で極めて特殊なトライボロジー特性を示す。それは、アモントンークーロンの摩擦法則を満たし、通常の薄膜と同様なスティックスリップのない滑らかな摩擦で、掘り起こしや強い凝着力などが生じていないにも拘らず、摩擦係数が1を超える超高摩擦であった。これはカーボンナノチューブの硬い曲げ合成に起因しているものと思われる。本研究では、このようなトライボロジーの概念を覆す摩擦特性がナノからマクロな荷重領域にも適応できるかを調べた。 荷重が1μNより小さなナノレベルの荷重領域では、マイクロレベルとほぼ同様な摩擦特性が得られた。しかしながら荷重が20μNを超えるとシリコン酸化膜基板に成長させたCNT薄膜は基板と分子間力結合しているのみで容易に剥離し、摩擦特性を得ることができなかった。そこで、CNT薄膜と基板との密着性を高めるために、陽極酸化アルミニウム(AAO;Anodized Aluminum Oxide)の細孔を鋳型として、そこにCNTを作製し、最終的に細孔にCNTの端部がめり込んでいるCNT薄膜の作製を行い、密着性を高めた。摩擦試験の結果、シリコン酸化膜基板では極低荷重で容易に剥離していたCNT薄膜が、AAO上では20〜100μN以上の荷重下においても剥離が観察されなかった。摩擦係数は1を超えないこともあった。 荷重が数mNのレベルではシリコン酸化膜基板にカーボン系接着剤を塗布し、CNT薄膜を接着した。そして摩擦試験を行ったところ、摩擦係数は0.3程度であった。またCNTの塑性変形による摩擦係数のヒステリシスが見られた。
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