研究概要 |
本年度は前年度に行ったエントロピー変化をマスター方程式に基づいて記述した場合に,その発生項の主要項にエントロピー生成に対応する常に正の項と外力・位相空間膨張率に対応する項が現れ,それ以外の項は粗視化を行う際のパーティションスケールが0の熱力学的極限で0となるという理論についてIUPAP統計物理学国際会議で発表したが,この理論はパーティションの体積が全て同一の場合に限って有効であることが明らかとなった.そこでこの理論をより一般の場合に拡張,すなわち局所エントロピーを局所確率密度を用いて定義し直し,修正された遷移確率を定義することで拡張し,一般の各パーティションの大きさが異なるような粗視化に対して理論が適用できるように修正を加えた.この理論が仮定している事実のうち,確率測度の変化に関連する二つのパーティションの局所確率密度の差のその和に対する比が平均的に熱力学的極限で0になるということに関して,これを理論的に証明することは大変困難であったが,Gilbertらが行っている3対マルチベーカーマップに適用して数値解析した結果,この仮定が妥当であることを裏付ける結果が得られた.また上述の一般化を受けてGilberらが行っている散逸的なマルチベーカーマップにも適用とした結果,位相空間膨張率項も含め上の理論の有効性が数値的に証明された.散逸的なマップでは上の理論はエントロピー生成を過大評価するが,これはマップ上で膨張率をどう定義するかだけの問題であり,マスター方程式上では問題とならない.現在,本年度の以上の成果をまとめ論文を国際誌に投稿し,審査中である.
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