研究概要 |
本年度は, 前年度に保存系において有効性を確認したmesoscopicなアプローチであるマスター方程式に基づく局所エントロピー支配方程式の分解法について. その散逸系に対する適応性をマルチベーカー鎖系を用いて検討した. その結果, 前年度に問題になった定常状態における位相空間膨張率の過大評価は, モデルそのものをより物理的に妥当なものに修正すること. 具体的には巨視的位相空間膨張率が巨視的に加えられる外力の大きさに対応するように修正することで解決できることが明らかとなった. このことにより本研究で堤案する局所エントロピー方程式の分解法は, より多くの力学系で有効であることが明らかとなった。 3年間の研究を通じて, まずこのエントロピー方程式の分解法により, いわば副産物としてエントロピー生成の正値性を証明することができた(Physica A, 388(2009), 332 : 研究発表欄参照)ことを強調しておきたい. この問題は非平衡統計力学の根本問題であり, 本研究で行った証明は, RuelleやGaspardらが行った証明をマスター方程式に基づく定式化で非平衡・非定常状態に拡張したものであり, 一般性は極めて高いと考えられる. 乱流は散逸系であり, これを粗視化した力学系は本研究で扱ったマルチベーカーマップで近似できるので, 今年度までの研究によりmesoscopicに外場の影響, 例えばクエット流における壁面移動による各種の巨視的統計量が局所エントロピー方程式の位相空間膨張率項を通じて微視的メカニズムにより説明できることが明らかとなった. この成果は最終的な乱流遷移機構の解明をはじめ, 乱流に対する力学系的アプローチの適用性をより高めるものとして期待される.
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