今年度は昨年度までの検討結果を踏まえ、炭素数10の直鎖メチルカルボネートの自着火に至る反応機構を作成した。去年度検討した、直鎖飽和炭化水素炭素の水素原子と酸素分子が反応し、OHラジカルとO原子が生成する経路により活性種が増殖していく高温燃焼機構(1200K以上)に、燃料分子からH原子が引き抜かれた後、酸素分子付加を2回繰り返したのち、keto-hydroperoxideを経由してOHが増殖する低温酸化機構を加えたものをベースとし、同様な反応経路をC10メチルカーボネートにも適用した。ただし作成されたものは、分子を構成する原子の多さ、対称性の無さから、反応数が7000を超えるものとなってしまったため、その反応から比較的寄与の少ない反応を削除することにより、反応数を4000程度まで削減した。この際の削減方法は、初期条件700Kおよび1200kからの断熱容積一定での条件で自着火に至る過程を計算し、同様な条件で計算を行った反応数の削減していない反応機構での結果と比較し、全体の圧力、温度プロファイルに影響を与えない反応を削除していった。また、異性体の区別をなくす等の方法も用い、直接影響を与えないが複数存在した低温酸化過程での反応経路を1本化した。この場合も計算結果への影響がないことを確認している。これらの簡略化により、燃焼中に生成される側鎖を持つ炭化水素の生成は無視されるが、生成量が微量であるため、影響はほとんどない。このメカニズムによる計算結果の確かさは、n-デカンを流通式反応管に流通させた際の試験結果および実際のエンジンを用いた試験結果により確認を行った。
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