研究概要 |
本研究では,機械や構造物の周波数特性を,各種の制振装置を付加することによって改善し,振動応答の抑制を図ることを目的としている.本年度は,機械や構造物の周波数特性であり一般的な評価指標として用いられるゲイン特性と,さらに同じく周波数特性である位相特性を共に考慮して,線形行列不等式を利用した線形制御理論に基づいて受動型の制振装置を設計することを目指した. 免震や制振装置のばねやダンパの設計問題を,定数フィードバック制御系の設計問題に置き換えた際に得られる制御器の構造がPD制御器の構造と似ているところに着目する.PD制御器はプロセス制御をはじめとして様々な分野で応用されており,その設計方法のひとつとして一巡伝達関数の整形で設計する手法が報告されている.一方でKYP(Kalman-Yakubovich-Popov)補題がある.これは線形時不変系の周波数特性の中で重要な二つの性質,有界実性と正実性をLMIで表される等価な条件に変換するものである.さらに原・岩崎らによって前述の条件に周波数ごとに制約を付加することが可能なGKYP補題(一般化KYP補題)が提案されており,PID制御器の一巡伝達関数整形の問題がこの手法により求解できる.本研究では,一自由度振動系における受動型振動絶縁装置の設計問題を例に取り,BMI問題の求解を行わずにパラメータを最適化する基礎的な検討を行った.ここでは質量を支えるばねとダンパをPD制御器のゲインとして考え,フィードバックゲイン設計問題にGKYP補題を適用し,適当な制約条件においてパラメータの最適化を行った.本手法を利用して設計した振動系の有効性をシミュレーションにより確認した.また,磁気ダンパによって減衰比が変更できる振動絶縁装置を製作し,本手法の有効性を実験的に確認する際に,減衰比を意図的に励振させることによって共振周波数以外の基礎部の入力周波数において共振が擬似的に誘起できる現象を見出すことができ,新たな制振方法の可能性を発見できた.
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