研究概要 |
本年度は,飲料物の入ったカップの啜り飲み動作について計測システムを構築し,把持したカップの軌道に関する特性解析を行った.カップ底面および被験者の頭頂部に傾斜センサを設置して,動作中のカップおよび頭部の傾き角度を測定し,さらに側面からデジタルビデオカメラで軌道を測定した.被験者には,机上に配置された実験用カップを把持して口元まで移動させ,ひと口飲んだ後に再び元の位置まで戻すように指示を出した.測定の結果,把持したカップを口元へ接近させるのと同時に,接触する前であるにも関わらず既にカップは傾き始めており,接触動作の準備を予め行っていることを示した.この動きは,人間が対象物体を把持する際に手の形を予め準備するプリシェイピングと同様の効果を持つと考えられる.接触後においてもカップの傾き動作は連続的に行われ,それと同時に僅かな並進運動を伴い,滑らかに口とカップとの接触動作を行っている.この連続的で滑らかな接触動作を遂行するためには頭部の動きが重要であり,接触後のカップは接触点まわりの回転運動と頭部の動きによる並進運動で構成されている.啜り飲み動作におけるカップの傾きと頭部の傾きとはほぼ比例関係であるが,カップの傾き角度の変化が明らかに大きくなる傾向が見られた.これらの測定結果に基づき,カップの傾き角度を入力,頭部の傾き角度を出力として,ARXモデルで近似を行った.シミュレーションの結果,測定波形とほぼ一致していることが確認でき,カップの傾きに頭部の動きが深く関与していることを示した.
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