本研究は気相に保持した微小液滴あるいは液滴の体積を減少させた極限として、生体高分子に水分子が結合しているマクロな水滴を含まない状態において生体高分子の反応を誘起する手法の開発を行うことを目的としている。生体高分子の気相・真空中への取り出し法として、エレクトロスプレーにより発生させた微小液滴を加熱あるいは減圧することによって水分を蒸発させる方法や高電界に曝露することによって電界蒸発現象を利用して生体高分子をフラグメント化する方法が有効であると考えられる。今年度は実験的に後者の検討を行った。 昨年度は電界蒸発を生じさせるために必要なV/A程度の電界強度を得ることができる先端の曲率半径が100nm程度の電極作成条件を明らかにした。今年度は電極先端に生体高分子(DNA)を効率的に固定化する方法の実験的検討を行った。DNAを固定した試料を用いて、電極先端に固定したDNAを電界蒸発によってフラグメント化して気相に供給することが可能であるかを電界イオン顕微鏡観察によって調べた。その結果、針電極先端を除く部分を絶縁物で被覆することによって、通常は特異的な結合を形成しないタングステン製の針電極と未修飾λDNAとの組み合わせにおいても誘電泳導による固定化が可能であることがわかった。このことは機械的強度に優れるタングステン製の針状電極を基板としてDNAを固定することが可能であり、金電極を用いたDNA固定法で必要となるチオール基(-SH)によるDNA末端の修飾等の複雑なプロセスを必要としない簡易な方法を提供するものである。
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