研究概要 |
人体は,例えばセーターを脱いだり,車から降りたり,スリッパで床を擦りながら歩いた後でドアノブ等の金属(導体)に触れる瞬間,10キロボルトかそれ以上に高い電圧に帯電することがある。高い電圧に帯電した物体(例えば人体等)が電子機器の近くを移動すると,静電誘導により機器内の電子回路基板等の導体部分に電圧(誘導電圧)が発生する可能性がある。近年,電子機器内の電子デバイスは数ボルト程度の電圧が原因で誤動作することが知られている。したがって,帯電した物体が電子機器の近くに存在し,その物体が移動するだけで,電子機器の誤動作が容易に発生する可能性がある。 帯電した物体の存在やその物体の移動により発生する電子機器の誤動作を未然に防止するには,電子機器の設計に指針を与える必要がある。しかし,静電誘導により開口部のある金属筐体内の電子回路基板等の導体部分に生じる誘導電圧に関連する研究は国内外でほとんど行われていないため,帯電した物体の移動に起因する電子機器の誤動作の防止に関する設計指針は研究代表者の知る限りでは存在しない。 本研究では,帯電した人体を模した帯電物体が移動したときに金属筐体内に生じる誘導電圧を明かにし,電子機器の誤動作防止に関する独自の基礎的な防護指針を提案することに成功した。本研究で提案した防護指針を履行することにより,静電誘導電圧に起因する誤動作を防止できる機器設計基準を具現化できるものと考えている。本研究で得られた成果の一部は,以下の博士論文にまとめた。 市川紀充:「放電・静電気によるEMI障害とそのEMC対策に関する研究」,芝浦工業大学博士学位論文(平成20年3月),pp.1-164.
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