データストレージでは常に超高密度化・高転送レート化が要請されている。高速磁化反転を実現するためには、磁化の歳差運動に対し適度なダンピング特性が必要であるが、ほぼ全ての磁性媒体用材料が低ダンピング特性を有し、なんらかの動特性制御が不可欠となる。本研究では、フェリ磁性体の角運動量補償点T_<CA>を利用し、歳差運動周波数およびダンピング特性の制御指針を得ることを目的とした。 本年度の主な成果は以下の通りである。 (a)高速磁化反転計測システム構築 既存ポンプ・プローブ計測システムに、本年度購入したフェムト秒パルスレーザー用パルスセレクターを導入し、照射パルス周波数をシングルショット〜数MHzの範囲で選択可能とし、試料に与える熱寄与を制御できるよう拡張した。 (b)時間領域高速磁化応答計測 GdFeCoフェリ磁性非晶質薄膜の超高速磁化応答を、中心波長800nmパルス幅約100fsのレーザー光を光源としたポンプ・プローブ法により磁気光学効果を用いて測定した。これに、Landau-Lifshitz-Gilbert方程式に基づく計算を相補的に用いることで、歳差運動周波数fおよび実効的Gilbertのダンピングファクターαの温度依存性を求めた。その結果、T_<CA>近傍でfおよびαが発散的特性を示すことを明らかにした。 また、一般に低ダンピング特性を有する従来の磁気記録用媒体(CoCrPtにおいてα=0.02程度)に比べ、GdFeCoはα=0.2程度と高ダンピングを示し高速磁化反転に有利であることが明らかとなった。 これらT_<CA>近傍において見られるfおよびダンピング特性が示す発散的性質は、温度制御によりringingの少ない高速磁化反転条件を得られる、すなわち熱アシステッド磁化動特性制御の可能性を示すものである。
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