本研究の目的は、ポアソン過程にしたがってシンボルを出力する情報源に対して、実時間基準のもとで最適な符号の構成方法を与えることである。具体的には、伝送レート、ポアソン過程のレート、出力されるシンボルの分布などのパラメータが与えられたもとで、誤り確率を最小にするような符号を構成する。本年度は次のような成果が得られた。 エントロピー符号化として代表的な算術符号に注目し、ポアソン過程にしたがってシンボルを出力する情報源に対する算術符号の遅延特性について調べた。符号器と復号器の間には一定レ一トで符号語シンボルを送信するバッファを設けた。システム全体の遅延は、算術符号による遅延とバッファによる遅延に分けられる。ポアソン過程のレートを小さくすると算術符号による遅延が大きくなり、ポアソン過程のレートを大きくするとバッファによる遅延が大きくなる。このことからポアソン過程のレートには遅延を最小にする点が存在することがわかり、実験によりその値を明らかにした。また、システム全体の遅延と算術符号による遅延の分布を計測し、さらに、直接計測することの難しいバッファによる遅延の分布をフーリエ解析によって明らかにした。その結果、バッファによる遅延はきわめて小さい分散を持つことがわかった。 ポアソン過程と連続時間マルコフ連鎖を含み、有限の状態空間を任意の分布に従って滞在しながら遷移する情報源のクラスを考え、このクラスにおいて任意の符号に対する喪失確率と通信路利用率が一致するための必要十分条件が、各状態への滞在時間が指数分布に従うことであることを示した。また、各状態への滞在時間が指数分布に従うと仮定したもとで、喪失確率の最小値も求めた。さらに、ひとつの符号を各状態で共有して符号化する場合の喪失確率の最小値も求めた。
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