本研究は、数100MHz帯の電波減衰の比較的少ない帯域を利用し、Multi-Input-Multi-Output(MIMO)型のアンテナアレイにより、広範囲における生存者の三次元的な位置を迅速に推定し、さらに呼吸による微小変位により生ずるドップラー信号から遠隔的に生存者の状況を把握する1次トリアージ判定を支援可能な生存者探査システム、信号処理法を開発するものである。 18年度の研究により送受信アンテナを対象を取り囲むようにアレイ状に配置し、複数の反射体のドップラー信号から三次元位置を推定するシステムのハードウエアを作成し、超解像信号処理の一つであるMIMO-MUSIC法の適用により位置推定精度が向上することを示した。19年度は多重反射の影響と広帯域化に着目し研究を行い以下のような実績を得た。 (1) MIMO-MUSIC法が散乱体の変位による位相変化の情報ではなく、振幅情報の変化に強く依存していることを示し、従来概念のドップラー効果による周波数変化に基づく推定法とは異なる新たな手法であることを明らかにした。また、人体近傍に複数の金属反射体等の強散乱体を配置し多重散乱による推定精度の悪化について検討した結果、アンテナアレイ方向に完全に遮蔽されていなければ位置推定が可能であることも示した。 (2) さらい、生存者のバイタルサインである呼吸等による運動情報を高精度に抽出するために広帯域な計測システムを用いた実験を行い、帯域幅150MHzにおいて電波到来時間-ドップラー周波数領域での二次元MUSIC法により50cm離れた二人の呼吸情報を分離可能であることを実験的に示した。また、長時間の計測においてもロバストな評価法であることを確認した。 これらの結果より、本手法の埋没生存者の状況を把握するための1次トリアージ判定への適用可能性が示されたものと考えられる。
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