近年注目されている生体一分子観察は、従来の多分子観察の平均化行程でうもれてしまう生体一分子の個性を発見できる可能性をもっている。一分子観察の手法の1つである蛍光一分子イメージングは、従来の定常状態の観察では、背景光の制約から高濃度蛍光標識サンプルを用いた反応は観察が困難であった。そこで、本年度は全反射蛍光顕微観察(TIRFM)に適したマイクロ流体システムの構築と試薬交換の高速化を目指した。 1.リークフリーマイクロバルブ製作技術の開発 試薬漏れのないPDMSマイクロバルブの作製のため膜厚100nm程度のPDMSを用いることで、マイクロバルブの耐圧、耐久性の向上を確認した。観察領域の薄膜PDMSのタンパク質などの生体分子吸着の影響の評価し、マイクロバルブの耐圧を向上させて状態でも生体一分子観察が可能であることが確認された。 2.タンパク質一分子観察のための高速化されたPDMSマイクロバルブ PDMSマイクロバルブの直列化によるディスペンサーデバイスを作製し、溶液交換の高速化を図った。3列のマイクロバルブを5msごとに制御し、観察領域に最速で40msで試薬の交換が可能であることが確認された。ディスペンサーにより吐出された試薬量は50pLを実現した。 また、必要な試薬を高速に注入が可能なマイクロ流体システムを用いて、大腸菌のシャペロンGroELとコシャペロンGroESの結合・解離の評価を行った。高濃度サンプルを100msオーダーの短時間導入する溶液交換マイクロ流体システムを作製し、高濃度のサンプルを用いた生体一分子相互作用のリアルタイム観察を実現した。 開発した生体一分子観察マイクロ流体システムを用いることで、これまで評価が困難であった生体の環境に近い高濃度の試薬導入が可能な生体一分子観察が初めて実現された。
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