通信ネットワークを介した制御系の構築やシステムバイオロジーなど制御工学の新しい可能性を切り拓き得る最新の課題において、情報伝達遅延はそれらの系の挙動に大きな影響を与える。一般に情報伝達遅延は制御性能を劣化させることがよく知られているが、その影響は一様ではなく、理論的に見ても完全に理解されているとは言えない。そこで本研究では、情報伝達遅延が制御性能に与える影響を理論的に明らかにした上で、従来の"遅延が存在しても機能する制御系"から"制御系設計において好ましい遅延の特徴づけ"さらには"遅延が存在するからこそ機能する制御系"の解析・設計を目指している。 本年度は、情報伝達遅延が制御性能へ与える影響を明らかにするための基盤となる、最適制御問題に関する基礎的な結果の整備をおこなった。具体的には、制御系設計において重要であるいわゆる無限∞-ノルムと2-ノルムの2種類を評価関数とする最適制御問題の性能限界と情報伝達遅延の関係を明らかにした。特にこの結果においては、複素解析的手法を用いることにより、代入以外め操作を必要としない簡明な表現が得られている。この点は、上で述べた本研究の目標を達成する上で重要である。 さらにこれら一連の基礎理論の研究と並行して、量子力学系の制御への応用に関する研究を進めている。既存の量子制御理論の実装の大きな障害となっている情報伝達遅延の影響に関する結果を既に導出しており、これに関しては平成19年度以降に報告する予定である。
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