研究概要 |
現実の制御系には,アクチュエータの飽和要素,制御対象保護のための制限などにより,制御入力や一部の状態変数の絶対的な大きさに関する,様々な拘束条件が存在する.拘束条件の存在を無視した制御系の運用は,ワインドアップ現象などを生じ,制御系の性能を著しく劣化させる.またきわめて容易に,制御系の不安定化を引き起こす.一方,実システムの特性として,非線形性を挙げることもできる.理論的な側面,応用例の豊富さの両方において,線形システムを対象とした線形制御理論は,非線形システムを対象としたそれと比較し,大きく発展している.しかしながら,すべての制御対象を線形制御理論の範疇で取り扱うことは不可能である.実システムの非線形性を考慮した制御理論の展開は,実用上重要な研究課題となっている. 本申請研究では,動的システムの振る舞いを決定する状態に着目し,不変集合をとおして,厳密な取り扱いにより拘束条件の達成を結論づける.動的システムの振る舞いは,状態によって決定される.この着想から,閉ループ系の状態空間上に,適切な不変集合を構成することで,拘束条件の達成を結論づけることができる.この不変集合の構成手順が、数理最適化と問題に帰着されることを明らかにした。 つぎに制御系設計法として、この不変集合を活用した目標値入力の整形機構を提案した。提案する目標値整形機構を利用することにより、拘束条件の達成を保障した上での目標値入力への追従制御が、非線形システムに対して可能となる。 拘束条件を有する非線形システムに対して、不変集合の構成手順、目標値入力の整形機構を明らかにすることができた。しかしながら帰着される数理最適化問題は、規模が大きな問題となると数値的に解を求めることが困難になる難点があることも事実である。効率の良い近似解の導出法など、計算効率を考慮した理論の拡張については、今後の課題となっている。また、提案する目標値整形機構を具体的な例題に適用し、数値実験などにより有効性を検証することは、今後の課題となっている。
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