研究概要 |
人工心臓を重度心不全患者に適用する場合,人工心臓を血液ポンプとして一定回転数で駆動させるだけでなく,生理系と協調して心機能を積極的に補助する制御方法を人工心臓に組み込むことが望まれている.そこで,本研究では,人工心臓と生理系が相互に作用する制御機構を組み込んだ人工心臓の治療制御法と,治療制御の入出力信号を計測することの出来る人工心臓組み込み型センサを開発した.まず,組み込み型センサとして人工心臓の出入り口に使用されているチタン製の曲がり管を利用した質量流量計を開発した.本質量流量計は,曲がり管内で血流に生じる遠心力により曲がり部で静圧が上昇することを利用した流量計で,連続流と拍動流に対して計測感度が最大となる計測位置を数値流体解析で,外力の影響を軽減する外力補償構造を流体構造連成解析で求めた.そして,数値解析の結果をもとに,センサとして歪ゲージを利用して,プロトタイプを試作した.体循環系を模擬した循環回路を構築し,市販の大型流量計と計測性能の比較試験を実施した結果,計測誤差1.0L/min以内,時間遅れも0.5秒以内で計測可能であることを確認することが出来た.次に,開発した質量流量計で計測される生体信号を入出力信号として利用した非線形体循環生理モデルを構築し,体循環系のインピーダンスを最小にする共振周波数を生理シミュレータによりオンラインで同定し,人工心臓の制御信号としてフィードバックする治療制御システムを構築した.体循環系を模擬した循環回路により評価試験を実施した結果,人工心臓の拍動数を循環動態に応じて逐次変動する共振周波数に合わせることで,最大の効率で血液を送血可能であることがわかった.本提案制御法により,これまで医師の経験のみで定量的目標の存在しなかった人工心臓の制御に対して理論に基づいた定量的指標を提供することが可能となった.
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