研究概要 |
本研究は,森林流域からの物質流出機構を定量的に評価できる汎用性の高い流出モデルを構築することが目的である.平成18年度はモデル構築に必要な森林条件の異なる複数の中小河川で水文・水質観測資料を収集して,雨水・物質流出機構に関わる森林条件に関して検討を行った. 具体的には一級河川吉野川の左支流である宮川内谷川流域(広葉樹林・和泉層群)と右支流である貞光川流域(針葉樹林・三波川帯),吉野川流域に隣接する西谷川流域(針広混交林,和泉層群)において,平成18年9月16日〜平成18年9月20日に発生した台風13号に伴う洪水イベントを対象にして,採水時間間隔1時間〜2時間の水質観測を行った.水質サンプル数は各流域でそれぞれ72サンプル,水質項目は硝酸イオンをはじめとする溶存イオンと,溶存珪素,および溶存鉄である.そして本課題で開発する分布型流出モデルの基礎となる物質流出タンクモデルを観測結果に適用して,両流域の物質流出特性の違いについて検討を行った.その結果として以下のような知見を得ることができた. 1.洪水時の物質流出特性に,和泉層群と三波川帯という地質の違いは直接的には反映されない.渓流水濃度は降雨流出成分(例えば表面流出成分,早い中間流出成分など)の割合の変化の影響を強く受けているものと思われる. 2.平常時の渓流水物質濃度(洪水直前の渓流水物質濃度)は,岩石由来のイオンとSiO_2について,地質の差異が明瞭に現れ,概して和泉層群の方が三波川帯よりも高い濃度を示した.この理由は地質の風化溶出速度の違いだと思われる. 平成18年度の洪水イベントは比較的小規模なものであったので,2流域の物質流出特性の違いについて詳細に検討することができなかった.平成19年度も引き続き水質観測を実施し,汎用的な物質流出モデルの構築作業を行う.
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