研究概要 |
本研究ではこれまでの防災計画学や研究代表者自身による被災地調査を通じて明らかにされた事実に,開発経済学やマクロ経済学等の視点を加えることによって,大規模自然災害被害の国際的影響について明らかにし,また国際的ネットワークを通じたリスクマネジメントの方法論について分析することを目的としている.19年度は,18年度に実施したフィリピン・レイテ島における地滑り被災地調査で得た問題意識をもとに,被災地域の復興におけるNGOや国際NGOの役割や契約のあり方について分析した.フィリピン等では,住居から学校や水道などのインフラに至るまで,海外のNGOからのギフトによって施設の再建が進められている.このとき被災地はNGOと金銭的な契約を結んでいるわけではないため,通常の契約理論が教えるようにはNGOのインセンティブを制御することはできないことを示した. また,援助供与国側の経済的動機を考慮した災害復興援助の枠組みについて検討した.供与国政府は政治的利益などの戦略的動機によって二国間援助を行う場合がある.一方,国際機関は被援助国政府が適切に資金を利用しているかについてのモニタリングを,他の外国政府よりも効果的に行うことができる.そこで,ゲーム理論を応用して,援助供与国の戦略的動機と国際機関のモニタリング機能に着目した,災害復興援助の枠組みについて検討した.そして援助供与国の戦略的動機に着目することによって,被援助国にとっては財政負担の大きな借款のほうがグラントよりも多額の援助が行われ,結果的に被援助国の厚生が大きくなる場合があることを示した. さらに,18年度に引き続いて中国の農村地域に着目し,中国農村信用社が提供する小額信用貸付と,2002年に制定された「農村土地請負法」の間の制度的補完性について分析した.そしてより簡潔なモデルによって,1)土地請負経営権の取引の自由化が農村の農民当たりのリスクがより均質化する.2)その結果,農村信用社のように大規模な金融機関によるリスクプーリングが容易になる.3)農村信用社が小額の貸付を行い,民間金融に融資の役割を残すことによって,民間金融による農民のリスクマネジメント行動に対するモニタリング機能を利用することができるという構造を示した.すなわち農地の経営権の流動化を通じて,農村信用社と民間の非制度民間の補完的効果が向上することを示した。
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