研究概要 |
1.従来,公共交通計画を策定する場合には,活動ニーズを把握し,それを充足する計画がよいとされてきた.しかし,公共交通サービス水準が低い地域においては,それによって提供される活動の機会によって活動ニーズの形成が影響を受ける可能性を否定できない.この作用が働く環境下にある地域を含めて各地域の公共交通サービス水準を決定する場合には,活動ニーズおよびその充足によって得られる満足度がどのような状況下で形成されたのかの区別が重要であるが,活動ニーズに着目している限りその区別をなしえ.ない.そこで,この問題点を倫理学,哲学,心理学等における議論に根拠を求めて論じるとともに,活動ニーズに先立って活動の機会に着目する計画論の重要性を述べた. 2.公共交通が不便な地域においてバスサービスの大幅な改善と縮小を経験した住民の実際の反応に着目した.この過程において,サービス水準の低下に対する住民の行動の変化とともに,サービス水準の変化が住民の活動への欲求に与える影響を分析した.その結果,活動の種類によって行動の変化が異なるとともに,サービス水準の低下の度合いの差異が行動の質的な変化に影響を及ぼしうることが明らかになった.さらに,サービス水準が低下すれば欲する活動を取りやめるのみならず,欲すること自体をしなくなることが明らかになった.サービス水準の差異は,人々の行動面のみならず,活動への欲求面にも差異をもたらすことが示された.これにより,1で述べた活動ニーズと活動機会との関係が一つの事例において実証された.
|