研究概要 |
本年度前半期は,空間統計学,時系列分析に関する既往研究のレビューを行った.空間統計学に関しては,パラメータの推定法や社会資本整備効果の他地点への波及効果を表現する空間依存パラメータの推計法や,仮説検定法などの研究動向の整理を行った.その結果,空間的な波及効果に関して,空間確率過程の定常性を確保しながら,地点間の空間相関を柔軟に表現することのできるモデル化手法の重要性が確認できた.また行政コスト不効率性に対する道路などの社会資本整備量の影響を実証分析によって検証したところ,有意な影響が確認できた.時系列分析に関しては,特に定常状態で外生変数の変化が内生変数に対して長期にわたって影響を及ぼす長期記憶性に着目して既往研究のレビューを行った.その結果,計量経済学の分野で開発された条件付き最小自乗誤差法が利用可能であるとの見通しを得た.共和分時系列に関する研究動向や,長期記憶性に関する構造変化の仮説検定法については,引き続き文献調査を行うこととした. 本年度後半期は,前半期に収集した既往の研究成果を踏まえて2つの課題に取り組んだ.まず,地点間の空間相関を柔軟に表現することのできる空間統計モデルとして,多属性空間依存パラメータを含む空間自己回帰モデルを開発した.このモデルを,地域交通社会資本サービスが地域の事業所立地量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした分析に適用したところ,その適用可能性が確認できた.時空間統計モデルについては,計算負荷の高い多地点および多時点の観測データ間の誤差構造を含む尤度関数の最大化を効率的に行うため,既往研究を拡張して外生変数の構造パラメータを同時推計できる条件付き最小自乗誤差法の推計アルゴリズムを開発し,地域生産関数の推計に適用した.長期記憶型地域生産関数については,パラメータ推計の安定性を向上させるため,引き続きモデル開発を行うこととした.
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