嗅覚測定法の精度向上を図る際の重要な一要素として、測定結果の不確かさに関わる影響因子の抽出を行った。具体的には、標準試料を用いた照合試験における繰り返し測定結果に対して、個人閾値を目的変数、パネルの年齢、性別、経験数などを説明変数として重回帰分析を適用した解析を行った。ここで、照合試験とは、複数機関で未知濃度の試料ガスの臭気指数を三点比較式臭袋法で測定し、参加機関の全体の測定結果から各機関の測定精度の評価を行うものである。嗅覚測定は官能試験のため、試験に関わるヒトが結果に大きく作用すると考えられる。試料サンプルは全機関同じものであるから、測定結果に大きく変化があるとすれば、試験室の環境、パネルの嗅力、オペレーターの技量などが考えられる。その影響因子ごとに条件が異なり一概に比較することが難しいため、今回は多変量解析の一種である重回帰分析を行った。 解析結果から、年齢、性別、パネル・オペレーターの経験数、当初希釈倍数、測定所要時間が個人閾値に比較的影響している可能性が高いことが明らかになった。個人閾値自体は実際の測定結果である臭気指数とは異なるため、断定することはできないが、測定結果にも影響を与えていると考えられる。しかし、抽出した因子の中には目的変数へ影響が及ぶ方向の解釈が矛盾するものも存在し、不確かさ因子を抽出する上で基盤となる繰り返し測定結果の記録方法の改善やそのデータの適切な処理方法を検討することが課題として指摘された。また、今回考えた変数の他に個人閾値に影響する因子があることが示唆されたことから、今回の解析結果を基礎データとして更なる影響因子の究明を行うことが嗅覚測定法の精度の向上を考える上で重要であると考えられた。
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