ここでは、コンクリート構造物の長寿命化を目的として、自己修復コンクリートの開発に関する検討を行った。これは、補修剤を内包したパイプをコンクリート内部に予め埋設し、発生したひび割れに自動的に補修剤を供給するものである。具体的には、母材となるコンクリート自体と、これに埋設するためのデバイス類についての検討を行った。前年度の研究成果から、コンクリートに生じるひび割れ幅の拡大の抑制が、効果的な自己修復に有効であることが確認されている。母材を繊維補強モルタルとした場合には、特に補修剤を外部から供給しない場合でも、ひび割れ後の水中養生によってひび割れ部に炭酸カルシウムの析出がみられ、ひび割れの自己修復が行われることが確認された。特にひび割れを架橋する繊維の本数と、ひび割れ部に析出する炭酸カルシウムの量に相関が見られることを確認した。また、埋設デバイスとしての補修剤保護パイプに前年度の成果であるフィルムパイプを用いる場合に、併せて発熱デバイスを埋設する手法について検討を行った。ひび割れ部に対して選択的に加熱を行うことのできる発熱デバイスを、補修剤保護パイプと併せてコンクリート中に埋設することで、ひび割れ発生箇所への選択的な補修剤の供給が可能となった。これらを埋設した供試体を複数作製して基礎的な実験を行ったところ、選択的な加熱と補修剤の供給が確認され、パイプの作製からモルタルへの埋設、ひび割れ後の自己修復機能の発現まで、一連のプロセスを確立することができた。また、この自己修復が行われた供試体では、水密性能の回復の回復に加ええ、引張強度の回復も確認することができた。デバイスの埋設間隔についても検討を行い、具体的な自己修復コンクリートの設計が可能となった。ここで得られた知見により、より現実の部材に近い形での自己修復コンクリートを作製に対して大きな足がかりを得ることができた。
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