本研究は、建物内を移動している人が目的地を見失い迷ってしまう現象を、設計段階のCAD図面上で予測するシステムを開発し、より分かりやすい建築空間の設計を支援することを目指すものである。本研究では、空間の分かりやすさは、[固定的な空間形状が持つ分かりやすさのポテンシャル+付加的なサイン情報による補完]によって構成されると捉え、それぞれの影響要因を系統的に整理することで、予測のための人間行動モデルを作成することを考えている。 「固定的な空間形状が持つ分かりやすさのポテンシャル」については、空間の見通し、エレベータや階段等の上下方向への移動といった要因が与える影響に関してのデータをこれまでに蓄積してきているが、経路の曲折数や曲折角度については不十分であった。本年度は、この点を補完するために、実空間において、経路の曲折形状が人間の方向感の把握に及ぼす影響について、基礎的な実験を行った。また、後者の「付加的なサイン情報の影響」について、空間の規模が大きく不慣れな利用者も多いため、経路探索にサイン情報が重要であると考えられる国際空港ターミナルビルを対象にして、サインの配置と人間行動に関する観察調査を行った。その結果、サインの配置と情報内容が人間行動に与える影響について把握でき、来年度に予定する空間構成とサイン配置の関係に関するシミュレーション実験において、変数を設定するための基礎的データが取得できた。
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