本研究の主たる目的は、現代トルコに多数の事例が確認されるオスマン風モスクのデザインの意味を明らかにすることであった。本年度は最終年であるため、これまでの1年目、および2年目に行ってきた現地での資料収集、調査等で得られた成果のとりまとめを行うことに重点を置いた。 まず、日本建築学会学会誌に査読付論文が掲載された。この論文によって、オスマン風モスクが量産されるトルコ社会特有の事情と社会システムをひもとくことができた。さらに、オスマン風モスクの代表的事例であるコジャテペ・モスクの建設経緯、ならびにデザイン変更の理由について、日本中東学会で口頭発表をおこなった。この口頭発表では、トルコ共和国史を専門とする中東研究者から多くの助言を得ることができた。ここで得られた助言に基づいて、現地での最終的な資料収集調査も実施した。現在、これらから得られた知見をもとに、著書を執筆中である。 3年間の本研究プロジェクトを通して、20世紀初頭に実施された「脱イスラーム政策」に対する反動の表象として、モスクのデザインにイスラーム帝国の様式であるオスマン風デザインが選ばれていることを明らかにすることができた。現代モスクのデザインに関する研究はトルコ固有の社会事情が影響しているため、現地ではほとんど関心が示されてこなかった. しかし本研究によりそういった状況が一歩前進ずることができたのではないかと自負している。現在作成中の図書のトルコ語翻訳の可能性も積極的に探っていきたいと考えている。
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