研究概要 |
平成18年度は、嶽麓書院に関する基礎資料の収集と読解を中心に研究を進めた。湖南省長沙の嶽麓山に建つ嶽麓書院は、宋より存続した最も歴史の古い書院の一つで中国を代表する書院である。 8月20日から9月3日にかけては中国(長沙、上海)で現地調査および資料収集をおこなった。長沙では本研究の主対象である嶽麓書院において、諸室の空間的つながりなど空間構成に関する調査をおこなった。また、嶽麓書院の背後にひかえる嶽麓山に登り、嶽麓山に点在する遺跡と書院との位置関係や風景の見え方などの確認を一部おこなった。 文献収集としては湖南省図書館において『嶽麓詩文紗』(道光10年[1830])をはじめ、『嶽麓書院同門譜』、『嶽産書院課藝』など重要な一次資料を複写し入手することができた。上海においては上海図書館などで書院に関する文献資料を収集した。 こうした文献収集と別に資料の読解も進めた。本年度は、とくに一次資料となる『新修長沙府嶽麓書院志』(8巻,鏡水堂版,康熙26年[1687])の読解を進めた。その中で注目されたのは、本文中に「溝湘八景」を詠った詩が136と多くみられたことである。『新修長沙府嶽麓書院志』の巻頭には「溝湘八景図」も載せられており、嶽麓書院において「溝湘八景」が重要なものであったことが窺える。清代を代表する山長羅典は、書院周囲の空地に花や竹を植え、池を掘って園林を建設したことで知られているが、その園林は当時の文人学徒らによって賞賛され、八つの勝景を称して「嶽麓八景」と名づけられている。「溝湘八景」と「嶽麓八景」との関係から、今後書院の風景論へと展開していく可能性が見出された。
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