研究概要 |
湖南省長沙の嶽麓山に建つ嶽麓書院は、宋より存続した最も歴史の古い書院の一つで中国を代表する書院である。平成19年度は、「嶽麓八景」と「瀟湘八景」との関係をとおして、書院をめぐる庭園と風景のあり方を明らかにしようとした。そのため、嶽麓書院に関する基礎資料の収集と読解を中心に研究を進めた。まず清代を代表する山長、羅典(1719-1808)の書院修築とそれにともなう園林建設に着目し、そこでうたわれた「嶽麓八景詩」や文を読解する作業を行った。対象文献は主に、『嶽麓詩文鈔』(道光10年[1830])、『続修嶽麓書院志』(4巻,半学斎版,同治6年[1667])、『新修長沙府嶽麓書院志』(8巻,鏡水堂版,康煕26年[1687])である。「嶽麓八景」は「柳塘鳴泉」、「桃塢焙霞」、「桐蔭別徑」、「風荷晩香」、「曲澗鳴泉」、「碧沼観魚」、「花〓坐月」、「竹林冬翠」をいい、詩ではそれぞれについてうたわれているが、そこには「瀟湘八景」(宋・沈括)の「平沙雁落」、「遠浦帆帰」、「山市晴嵐」、「江天暮雪」、「洞庭秋月」、「瀟湘夜雨」、「煙寺晩鐘」、「漁村落照」との情景的類似性が部分的にしか見出せなかった。 また、読解の途上で注目されたのは、上記文献中に飛来石(拝嶽石)についてうたわれた詩が多かったことである。飛来石は嶽麓山頂の雲麓宮の前にある大きな石である。この石とそこからの眺望(北の洞庭や南の南嶽)が関連づけられてうたわれており、嶽麓書院にとっての嶽麓山の意味および山頂からの風景の意味を考える上で重要であることが確認された。
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