研究概要 |
2年目にあたる今年度は,昨年度の中国に関する調査を踏まえつつ,対象を韓国に絞り込み,文化遺産のオーセンティシティに関する考え方の抽出を試みた。具体的には,昨年度講演会発表をおこなった20世紀前半における建造物保存修復の日韓比較を元に,さらなる資料収集と分析の掘り下げをおこなった。資料収集としては,佐賀県立名古屋城博物館所蔵「小川敬吉文化財調査資料」の閲覧及び複写,韓国成均館大学所蔵石窟庵第一次修理時(大正期)撮影ガラス乾板の閲覧(成均館大学博物館展覧会)を実施した。後者については,展覧会図録において,研究者による上記の昨年度講演会発表が引用されており,研究成果が韓国の研究状況にも浸透しつつあることを認識しえた。 以上を踏まえ,20世紀前半における日韓の建造物保存修復を,修理方針,技術者,修理技術から比較する論文をまとめ,日韓両国語にて発表した。本論文は保存修復の歴史に関する論文ではあるが,東アジア各国における建造物のオーセンティシティに関する微細ながら本質的な差異として,建造物の屋根構造が規定する修復方法が,オーセンティシティ概念をも拘束する面があることを抽出している。日韓両国語での論文発表の機会を得たことで,今後の情報収集に新たな展開が生じることが期待される。 加えて,日本に関する研究として,明治29年の古社寺保存会設立当初に作成された建造物の等級表に関する研究をまとめ,論文として投稿中である。
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