本研究は、東アジアにおける不動産文化遺産のオーセンティシティ(真実性)概念を比較して論ずるものであり、日本、中国、韓国の3国につき、概念の史的形成過程から、その共通点と差異の抽出を試みている。中国に関しては、平成18年、20年に現地での情報収集と建造物保存、遺跡復元の現場視察をおこない、韓国に関しては、各年度において、特に20世紀前半における文化遺産保存の考え方と実践のありようを日本との比較の観点から分析し、同時に現在進行中の建造物保存、遺跡復元プロジェクトにつき、担当者からの聞き取りと意見交換をおこなった。日本については、概念形成の基礎をなす明治から昭和初期における文化遺産保存の理念、方法、実践を、研究代表者の既往研究を補足するかたちで実施した。以上の作業を経て、東アジアに共通するオーセンティシティ概念につき、「更新のオーセンティシティ」という考え方を提出するとともに、中国においては「原状(Historic Condition)」の概念、韓国においては構造補強と材料交換の関係、日本においては復原と構造強化の分節的同時併存、という観点において、明確な差異がみられることを明らかにし、それぞれの成果を研究論文、図書、口頭発表として報告した。
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