一様な正電荷を背景にクーロン相互作用する多体電子集団、すなわち電子ガスを対象とした多体理論研究が精力的に進められており、低密度領域における強磁性や超伝導の出現などの興味深い物性予測がなされている。このような低密度領域では、基底エネルギーから導出される電子ガスの圧縮率が負となることが多体理論により同時に明らかにされている。本研究は、電子ガスモデルの具現例であるアルカリ金属に着目し、温度圧力を制御して気液共存線を迂回するように連続的な密度変化を実現することにより、その電子密度の大幅かつ連続的な低密度化を実現した。金属流体中において電子系とイオン系は強く結合しており、低密度化に伴う電子系の物性変化はイオン系の構造変化として顕在化する可能性がある。これまで報告者が実施してきた流体ルビジウムのX線小角散乱の実験結果によれば、電子ガス系の不安定性が予測されている領域で小角散乱強度が増大し、イオン系に密度揺らぎが起こることが明らかとなっている。本研究では、流体セシウムを対象としたX線小角散乱実験を実施し、融点近傍からセシウムの臨界点(1651℃、92.5bar)を超える超臨界領域までの測定を実現することに成功した。その結果によれば、体積膨張による密度の低下により、1.3g/cc付近から小角散乱強度の増大が見られ、流体ルビジウムと同様に低密度化に伴って密度揺らぎが出現することが明らかとなった。このことは、流体中に、例えばクラスター形成といった、系を不均質にするミクロ構造が出現していることを示す。このような構造変化の始まる密度1.3g/cc、電子ガスモデルで負の圧縮率への転移点として予測されている領域と極めてよく一致し、電子ガス系の不安定性との関連を示唆する結果となった。
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