本研究では、「高温超伝導体で確認している可視光誘起構造変化」に焦点をあて、光誘起構造変化により実現する光ドーピング、絶縁体-超伝導転移など独自の光特性制御技術を巧みに利用し、超伝導ナノ素子の作製と高次機能の創製を試みた。特に、近接場光学顕微鏡を利用したナノ光書き込みによりナノドット、ナノ細線、ナノ接合などの微細素子を作製し、その特性評価を通じてナノスケールの組織制御による特性向上やナノ領域で現れる新規量子現象の可能性を探求した。 昨年度の研究で確立した近接場光学顕微鏡によるナノスケールの光相制御技術の発展的応用として、超伝導薄膜試料における高密度ナノドットの光書き込みと超伝導特性、臨界電流密度J_cの制御を試みた。c軸配向YBa_2Cu_3O_<7-d>(Y123)絶縁性薄膜(YBa_2Cu_3O_6.35)における光書き込み実験では、可視光による光誘起構造変化に伴い光ドーピングが実現し、局所的に金属状態を誘起できることを確認した。また、この光誘起ナノドットは超伝導特性を示し、近接場光プローブを利用した光相制御技術によりY123絶縁体の望みの領域に望みの超伝導ナノドットを作製できることが明らかとなった。さらに、c軸配向Y123薄膜(T_c=85K)に対し、近接場光プローブを用いた光書き込みにより、ナノドットが高密度に分布した微細構造を作製した。特徴的な変化は、臨界電流密度J_c特性で観測され、50nmサイズのナノドットが約50nmの間隔で高密度配列した試料では、J_cがナノドット生成前に対し3倍程度向上し、近接場光書き込みしたナノドットがピン止め中心として機能していることが明らかとなった。 さらに、本研究で開発した近接場分光システムを様々な超伝導体材料の構造・物性評価に応用し、新規光機能の可能性と共に、超伝導発現と関係した電子状態変化の検証を進めた。
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