本年度は、固相反応プロセスによる低温合成技術を用いて組成の制御されたマグネシウムシリサイド系熱電材料を作製し、ドープする不純物元素の種類と量の最適化を行った。また、第一原理計算より不純物元素の形成エネルギーを評価することで、マグネシウムシリサイド系熱電材料に効果的にドープ可能な不純物元素を理論的に明らかにした。また、熱電物性に大きな影響を及ぼす格子振動についても詳細に検討を行った。その主な研究成果は下記の通りである。 1.真空封入法やパルス通電焼結法などの固相反応プロセスにより、PドープMg_2Siの作製に成功し、その熱電特性を初めて明らかにした。また、SbドープMg_2Siの熱電特性のSbドープ濃度依存性を詳細に検討したところ、その熱電特性は作製プロセスによって異なり、Sbドープ濃度だけでなく、Mg_2Si中に不純物として僅かに含まれるMgOの量や焼結体の結晶粒径や粒界などの影響を受けることが明らかとなった。 2.Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属、Laなどの希土類元素、Clなどのハロゲン元素をドープしたMg_2Siは全てn型半導体であった。これらの不純物元素をドープすることにより、未ドープのMg_2Siよりも約1桁キャリア濃度が上昇するものの、その固溶限界値は低く、熱伝導率には顕著な影響を及ぼさなかった。 3.第一原理計算からMg_2Si中への27元素の不純物元素の形成エネルギーを評価したところ、Vb族のP、As、Sb、BiをSiサイトにドープした時の形成エネルギーは負となり、これらの不純物元素はn型の良好なドーパントになることを理論的に明らかにした。また、Mg_2SiとMg_2Geの格子振動計算の結果、SiとGeの質量の違いが振動数に影響を与えていることが分かった。また、これらの比熱、エントロピー、デバイ温度などの熱力学パラメータの計算値は実験値と良く一致することが分かった。
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