Cr_2Nの添加量と、Co-29Cr-6Mo合金内に含有する窒素量の関係を調査した結果、窒素含有量はCr_2N添加量が増加するにつれて増加する傾向があるが、添加量が1wt%付近において含有量が約0.16wt%付近となり、それ以上添加しても窒素含有量は飽和する傾向がある。このことから、本実験条件下でのCo-29Cr-6Mo合金の溶解において、溶湯内に固溶できる窒素量は0.16wt%程度であると判断される。X線回折法により窒素を含有するCo-29Cr-6Mo合金の相構成を調査した結果、窒素を添加しない合金では室温ではε相(HCP)単相であるが、窒素量が増加するに従ってε相が減少し、代わってγ相(FCC)が増加した。窒素含有量が0.16wt%以上でγ相単相となる。このことは、窒素はマルチンサイト変態温度を低下させる効果があることを示している。透過型電子顕微鏡を用いてそれぞれの合金の組織を観察したところ、窒素無添加Co-29Cr-6Mo合金においては、多量のマルテンサイトと積層欠陥がγ相の(111)面に沿って存在している。これに対して窒素含有量が0.16wt%の場合には、マルテンサイトおよび積層欠陥は観察されないが、湾曲した転位が存在しており、その転位は拡張しているもののその拡張幅は狭く、無添加材に確認される積層欠陥の幅とは大きく異なる。以上のことからCo-29Cr-6Mo合金に対する窒素の添加はγ相の積層欠陥エネルギーを増加させる効果があることを示した。 引張試験により窒素添加Co-29Cr-6Mo合金の機械的特性を調査した結果、降伏強度は窒素含有量が0.08%までは減少するが、それ以上では増加した。降伏強度が減少した理由は、合金内部に存在するマルテンサイト量が減少したことに対応し、それ以降の増加は、窒素の固溶強化に起因するものと考える。
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