本研究では、直接型メタノール燃料電池(DMFC)の高出力化を目指し、新規固体電解質膜の調製とその特性について検討を行った。DMFCの高出力化を達成するため、電池の作動温度を現状の80℃付近から上昇させることを目的とし、高温で便用可能な固体電解質の開発を行った。本研究では、電解質として汎用のナフィオンを用い、電解質中のプロトン伝導チャンネルであるイオンクラスターヘナノ分子フィラー(POSS)を導入することで、新たな高分子-無機複合膜の構築を行った。 本研究ではPOSS添加量を3-10wt%で複合膜の調製を行い、膜のキャラクタリゼーションに加え、加湿中でのプロトン伝導度測定を行った。FT-IR測定の結果、POSSは膜中に均一に分散していることが分かった。さらにPOSSは膜表面の疎水性を高めることが分かった。 伝導度測定では、純ナフィオン膜は、温度の上昇により含水量の低下に伴って、伝導度の減少が観測された。POSS添加膜では、3wt%は純ナフィオンと大きな差異は見られなかったが、5wt%のPOSS分子を含む膜では、70℃付近から伝導度の上昇が見られ、150℃で最大値をとった。さらに、7wt%のPOSSでは、より高い伝導度が得られた。したがって、POSS添加により高温作動燃料電池用電解質膜の構築が可能であることが示唆された。ナフィオン表面の水に対する接触角測定より、POSS含有量の増加に伴って表面疎水性が増大することが分かった。これは、POSSとイオンクラスターの相互作用により、疎水部との相分離が助長されたことによると考えられる。したがって高温伝導性の上昇は、POSS分子とイオンクラスターの相互作用に起因すると考えられるが、その詳細は不明であり、今後の課題である。今後、複合ナフィオン膜を用いたMEAを作製し、電池特性の評価を行っていく予定である。
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