本研究では磁気ランダムアクセスメモリやハードディスクドライブの再生ヘッドで必要とされる高いトンネル型磁気抵抗(TMR)比を示すMagnetic Tunnel Junction (MTJ)を実現するために、Co基ホイスラー合金薄膜の作製と点接触アンドレーエフ反射を利用したスピン分極率測定を行う。実験的に高いスピン分極率が得られた材料を用いて、高いTMR比を実現することを最終的な目的としている。 昨年度に引き続きCo基ホイスラー合金に第4元素を添加することにより高いスピン分極率を示すホイスラー合金の探索を行った。その結果、Co_2Ti_xMn_<1-x>Sn系でx=0.25のときにスピン分極率が0.65、 Co_<2-x>Fe_xCrGa系でx=0.05のときに0.65が得られた。この値はハーフメタルの予想に反して低いものであったが、Co基ホイスラー合金のPCAR法により得られたスピン分極率の中では最も高いものである。Co_2Ti_xMn_<1-x>Sn系のスピン分極率の増加は、E_fの制御によるものと考えられる。計算によるとCo_2MnSnのEfはバンドギャップの右端に存在するが、MnをTiで置換していくとEfレベルがギャップ中央へシフトする。そのため不規則構造の存在によりバンドギャップ付近に余分な状態ができても、Efがギャップの中央へシフトしたことにより、その影響を受けにくくなったためと考えられる。Co_<2-x>Fe_xCrGa系のスピン分極率の増加はEfレづルの↑スピンの状態密度の増加によるものと考えている。 昨年度開発したスピン分極率の高い材料であるCo_2CrFeSiを用いたTMR素子の作製も試みた。しかし、MgO基板とのミスフィットが大きいために平坦な界面が実現しておらず、TMR比も低い値にとどまっている。今後下地層を検討することにより0.2nm以下の平坦な界面が実現できれば高いTMR比が期待される。
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