研究概要 |
血管内に埋入したステントの周囲で再狭窄を起こさせない材料として、生体吸収性金属材料が検討されている。マグネシウム合金は同材料の有力な候補材であるが、血管内での腐食速度に及ぼす血流やpH、共存アニオンやタンパク質などの影響は検討されていない。本研究では、模擬血流環境でのマグネシウム合金の腐食挙動に及ぼすpHおよびタンパク質の影響について検討を行った。種々の溶液中でマグネシウム合金試料を回転させ、表面に生じる対流の速度を回転数により制御した。 ホウ酸緩衝剤によりpH6.5, 7.6, 9.3に調整した溶液中で純マグネシウム回転電極の分極試験を行った。各pHにおけるアノード電流密度(腐食速度に相当)を比較したところ、生体内のpHに近いpH6.5および7.6においては電極の回転数の影響を大きく受けたが、pH9.3においては回転数の影響は小さかった。また、アノード電流密度のpHによる序列は、O rpmと1440 rpmにおいて異なる序列を示した。これらの結果は、生体吸収性マグネシウム合金の腐食速度評価では、溶液の流速だけでなくpHも制御する必要があることを示している。 アルブミンを含むホウ酸緩衝液中およびリン酸緩衝液中で純マグネシウムの分極試験を行った。前者より後者の溶液中における方が、アルブミンの共存によりアノード電流密度の低下が顕著であった。血液のpHはリン酸、炭酸やアルブミンなどにより緩衝されている。これより、生体内におけるマグネシウムの腐食はアルブミンにより抑制されることが示唆された。
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