研究概要 |
特定の金属化学種と相互作用するように分子設計された抽出試薬を用いることによって,分離材料に高い金属選択性を与えることができる。本研究では,精密ろ過膜として工業利用されている多孔性中空糸膜(細孔径は0.4μm,膜厚は1mm)を基材膜とし,放射線グラフト重合法によって疎水性の高分子鎖を細孔表面に付与し,疎水性膜を作製した。多孔性基材に付与されたグラフト鎖は,その片端が細孔表面に固定され,別の片端が自由に伸びているためフレキシブルな環境を提供する。このグラフト鎖の作り出す空間を金属イオンの抽出相として利用した。 抽出試薬が分子内に荷電基を有している場合,反対の電荷をもつ官能基をグラフト鎖へ導入することによって,抽出試薬とグラフト鎖との間に静電相互作用が生じ,抽出試薬をグラフト鎖間に担持できる。これまで,リン酸基およびアミノ基を有する抽出試薬をグラフト鎖間へ高密度に担持した。しかしながら,tri-n-octylphosphine oxide(TOPO)のように中性の抽出試薬は,グラフト鎖間へ取り込むことができず,細孔の目詰まりの原因となった。そこで,多孔性膜へ付与したグラフト鎖の上部を親水化し,下部を疎水化することによって,TOPOを担持する空間をつくるとともに目詰まりを防ぐことを考えた。親水基としてはジオール基を,疎水基として,オクタデカンチオール(C_<18>H_<37>S-)基を採用した。グラフト鎖上部に配置したジオール基は,細孔内部に凝集したTOPOとグラフト鎖との結合を弱める効果があり,TOPO担持後に純水を透過させることによって容易にTOPOが除去され,高い透水性を達成した。C_<18>H_<37>S基は,グラフト鎖間へ浸透したTOPOと疎水性相互作用することによって,TOPOをグラフト鎖間に安定に保持した。モデル金属を膜に透過させると,担持したすべてのTOPOが金属を配位したことから,高効率に金属を捕捉できることがわかった。
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