研究概要 |
特定の金属化学種に配位する官能基と炭素鎖から成る分子(抽出試薬)を多孔体の細孔表面へ保持することによって,多孔体に高い金属選択性が与えられ,金属回収用材料として利用できる。本研究では,多孔性膜の細孔表面へ疎水性の高分子鎖をブラシ状に付与し,疎水性相互作用によって高分子鎖間へ抽出試薬を保持して,貴金属や希土類元素の回収に適用した。これまで,精密ろ過膜として利用されている多孔性中空糸膜を基材とし,溶媒抽出法で用いられている抽出試薬,塩化トリーオクチルメチルアンモニウム(Aliquat 336),トリーオクチルホスフィンオキシド(TOPO),ジ(2-エチルヘキシル)リン酸(HDEHP)を担持した分離膜を作成して,貴金属の高速回収を実証した。今年度は,液体透過性能および物理強度を向上させるため,シート状の多孔体(厚さ2mm,平均細孔径1.0μm,空孔率75%)を基材として採用した。また,操作の単純化のため,シートを直径13mmのディスク状に切り出して,市販の化学分離用カートリッジに充填した。HDEHPを担持したシートの透水性能は,HDEHPを担持した多孔性中空糸膜の10-30倍向上した。また,担持量および金属の吸着容量は,多孔性中空糸膜と同等以上であった。これは,ブラシ状に付与された高分子鎖がつくりだす空間に高密度に抽出試薬を担持できたためである。HDEHPを担持したシートを海水中の希土類元素の濃縮に適用した。500mLの海水を20分で処理できた。本シートの適用によってpptレベルの希土類元素を迅速に濃縮できたことから,簡便な濃縮操作を実現する新しい分離材料として期待できる。
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