研究概要 |
液相中に微粒子を分散させた微粒子分散系は種々の材料の生成プロセスに関与している.これらのプロセスでは,微粒子の分散剤・凝集剤として高分子電解質が添加されるが,微粒子の分散・凝集効果に対する高分子電解質の作用機構には未だ不明な点が多く,ほとんど経験に頼って使用されているのが現状である.プロセスの高精度化・高効率化のためには,その作用機構を分子レベルから理解することが必要であり,その手段として分子シミュレーションが有効であると考えられるが,計算機の能力による制約から,従来の手法では実現が困難であった.そこで本研究では,溶媒を陰に扱い,溶媒の情報を近似的に含む溶質間相互作用を用いることにより,計算量の大幅な削減と定量性の確保を両立した新規なシミュレーション手法を確立し,微粒子表面における高分子電解質の分子挙動(ミクロな情報)と液相中での微粒子挙動の支配因子である微粒子表面間力(マクロな情報)の関係を解明することを目的としている. 微粒子を含むシミュレーションを行う前に,水溶液中の高分子電解質自体を適切にシミュレートできる必要があるため,本年度は高分子電解質水溶液のシミュレーションに取り組んだ.高分子電解質の疎水基をメタンで,イオン基をテトラメチルアンモニウムイオンで表現し,それらの相互作用に,水分子の影響を含む相互作用である平均力ポテンシャルを適用した.このようなモデルにより水溶液中の高分子電解質をシミュレートした結果,(1)高分子電解質中に含まれるイオン基の割合がある程度以上になると,高分子は水中で線状に広がって存在すること,(2)電解質を添加することで,水中では広がって存在していた高分子が糸まり状になることが分かった.また,実際に高分子電解質を合成し,光散乱測定を試みたが,測定結果に大きなばらつきが見られた.これは,合成した高分子の分子量分布が広すぎたためだと考えられる.
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