本課題ではこれまでに、固体高分子形燃料電池触媒膜の内部構造が発電性能に影響を及ぼすことに着目し、乾燥操作による構造制御手法について研究をおこなってきた。乾燥速度が早く凝集性の高いスフリー塗布膜は容易にクラックなどの構造欠陥を引き起こすが、溶媒の飽和蒸気圧雰囲気下において乾燥することにより構造を制御できることが明らかになった。さらに、高分子溶媒中で触媒粒子を分散するプロセスにおいて、撹拌初期においては触媒粒子と高分子の絡み合いが進むが、過剰な撹拌は逆に局所的な凝集構造の形成に繋がることを示した。 溶媒雰囲気下での乾燥は再現性を得ることが困難であったため、スラリー塗布膜および乾燥雰囲気の温度を同時測定することにより、乾燥条件について詳細に調べることとした。この結果、飽和蒸気圧よりも低い圧力で保持すると、保持する圧力に到達する前に殆どの溶媒が蒸発してしまったために、クラックが頻発することがわかった。また、保持圧が高い場合には保持時間に関しても過剰に保持すると逆にクラックを引き起こすことがわかった。これは、圧力保持中に溶媒乾燥が進まずに、圧力保持後の溶媒除去プロセスにおいて急激に溶媒が除去されたためと考えられた。逆に保持時間が不十分であると、一部の溶媒が除去された状態での微粒子再配列が進まずにクフックを引き起こす。これらのことから飽和蒸気圧において30分程度保持するのが適切な条件であることが判明した。 一方、異なる組成のスラリーを調査した結果、分散プロセスにおける触媒粒子の再凝集挙動はある特定の組成において認められることがわかり、その再凝集挙動がスラリー粘度を指標とすることで塗布・乾燥を経ずとも事前に予測できることも明らかにした。
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