本課題研究の目的は、生体分子、中でもDNA分子を鋳型とした新規多孔質シリカの合成である。本年度は鋳型分子として用いるDNAとシリカの相互作用を実現し、その後DNAを取り除き、多孔質シリカを得ることを目的とした。 DNA-Na塩は水溶性で水中では負に帯電している。これはDNA内のリン酸基によるものである。また、DNA-Na塩が安定に存在できる塩基性条件下ではシリカ種も負に帯電している。このままでは静電的な反発によりDNAとシリカ種の相互作用は期待できない。共に負に帯電しているDNAとシリカ種の間の相互作用を促進させるため、Si(OC_2H_5)_4(TEOS)に加え、正に帯電可能な有機官能を有する有機アルコキシシランをシリカ源の一部に用い、DNA-シリカ複合体を合成することを試みた。この有機アルコキシシランとして、(CH_3O)_3Si(CH_2)_3N^+(CH_3)_3Cl^-(TMAPS)を用いた。 DNA-Na塩型を水に溶解した後、攪拌下シリカ源としてTMAPSとTEOSの混合物、及びNH_3水溶液を加え、攪拌を続けた。合成条件、主に原料の組成、溶液のpH、を精査した結果、白色の生成物を得た。元素分析、13C NMR等により生成物中にDNA分子が存在していることを確認した焼成により、有機部位を除去したサンプルのXRDパターンは2θ=0.7〜1.5°にピークが観測された。また、窒素吸着脱着測定によりBET比表面積を見積もったところ、約500m^2/gであった。故に、このサンプルは規則性の低いメソ構造体であるといえる。BJH細孔径分布曲線において鋭いピークは見られないものの、吸着等温線の形よりメソ孔をもつことが確認できた。 以上より、DNA分子内の-PO_3^-Na^+とTMAPS分子内の-N^+(CH_3)_3Cl^-の塩の複分解反応を進行させ、DNA-シリカ複合体を得ることに成功した。引き続き、メソ構造の規則性の向上、形態の制御などに取組む。
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