現在、医療や食品の分野において用いられる生物材料は大腸菌に代表される様々な微生物を用いて製造されている。微生物の一種である放線菌は抗生物質をはじめとする様々なタンパク質を分泌生産することの出来る有用な微生物として認知されている。これまでに、大腸菌と放線菌のシャトルベクターpUC702プラスミドへStreptoverticillium cinnamoneum由来PLD遺伝子とその上流のプロモーター遺伝子領域と、タンパク質の分泌発現に関与する分泌シグナル領域を導入したpUC702-promoter-PLDを構築し、放線菌(Streptomyces lividans)に組み込み、その発現について解析を行ってきた。その結果、このプロモーター領域を組み込むことで野生株に対し、約20倍のPLD生産量を示し、比活性に関しても野生株Streptoverticillium cinnamoneum由来PLDとほぼ同じであった。これらよりStreptoverticillium cinnamoneum由来PLD発現プロモーターは、放線菌組み換え体においてもPLD生産に効果的に、しかも強力に働いていることが明らかとなっている。本申請研究では、大腸菌の発現系において取得された高活性変異体PLDを放線菌で大量に分泌できる発現系を構築し、解析を行った。また、放線菌を宿主とした有用タンパク質の分泌生産系への応用のために、まず、モデルタンパク質としていくつかの外来タンパク質の発現系を構築し、この放線菌の発現系が外来タンパク質生産に有効であるかを検討した。その結果、放線菌でも変異体PLDをW.T.-PLDと同様に大量分泌発現されることが分かった。変異体PLDの立体構造解析を行うことによって、W.T.-PLDと比較して活性部位付近に存在する蓋様構造(以下Lid領域)のみが変化していることが推測される。それにより、比活性や基質親和性や触媒能が変化することが示された。大腸菌の発現系とは関連性が見られないことが分かり、大腸菌発現系での活性の低い変異体が放線菌の発現系では活性が高くなる可能性があることが示された。また、放線菌の発現系で外来タンパク質の分泌発現も確認さきた。しかしながら、発現量が非常に少量であることや、発現の確認されないタンパク質もあり、目的タンパク質によって培養条件を検討することが、今後の課題となった。
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