本年度は、マウスの匂い学習および識別行動と脳における活動の変化を解析し、匂い識別情報処理系のバイオプロセスへの適用のための基盤を確立するため、以下の内容を実施した。 (1)Y字迷路を用いた匂い識別検定方法を確立した。この検定方法を用いてお酒の様な混合臭や人工的に匂い物質を混合した物質に対する匂い学習を行い、匂いの種類や組合せと識別結果の関係を調べたところ、複雑な匂いを用いて学習を行った場合に学習効率がよいこと、アテンションの存在を強く示唆する結果が得られた。また難易度の高い課題において初めて個体差が現れ始めることが示された。 (2)Western Blottingによる匂い識別行動時に活動するマウス脳部位の解析をおこなうため、匂い学習前後のマウスを用い、匂い学習の前後および匂い識別検定を行った前後において脳を摘出し、嗅球や梨上皮質、扁桃体、海馬といった機能単位で切り分けた。MAPキナーゼをマーカーとしてウエスタンブロッティングを行ったところ、学習後の匂い識別行動時においてMAPキナーゼのリン酸化が低下しており、またより高次の脳領域において顕著であった。 (3)匂い識別情報処理系のモデル化と新規プロセス制御系構築のために、ウインドウ仮説を基にしたシミュレーションモデルを構築した。 (4)匂い識別情報処理系の培養バイオプロセスへの適用のため、システムの立ち上げを行った。 このようなデータの結果をふまえ、最終年度となる来年度は個体差の表出とアテンションとの関係および匂い識別情報処理系の培養バイオプロセスへの適用についてさらに検討を進めたい。
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