強い衝撃波背後の熱化学的現象の内、回転緩和現象の理解に有用と考えられるコヒーレントアンチストークスラマン分光法(CARS法)による窒素分子の電子基底状態N2(X State)の振動、回転温度の計測の可能性の検討を行った。特に、本年度は他機関で過去に得られた比較的衝撃波速度が遅い、5km/s程度の衝撃波背後で得られたCARS分光結果と同一条件で行われた衝撃波背後のN2(2+)の発光分光法による計測結果の比較から、CARS分光の問題点、改良点の検討を行った。 得られた主要な成果は以下の通りである。 1.発光分光、CARS分光の結果共に、衝撃波背後平衡状態においては、理論的に予測される平衡温度付近に分布する傾向が見られたが、CARSによる温度の分散が目立つ結果となった。 2.発光分光法では振動より回転温度の方が高く算出されたのに対し、CARS分光では回転温度より振動温度が高く、両手法で全く逆の結果となったが、衝撃波背後のエネルギーモードの移乗のメカニズムからは、発光分光による結果が妥当と考えられ、現状ではCARSによる温度算出には誤差が含まれていると考えられる。 3.2.を踏まえて、現状でのCARS法における誤差の主因として、温度算出に用いる理論スペクトルの計算の際に、圧力の影響を無視していることが主因と考えられている。 そこで、次年度は、圧力の影響を考慮した、より詳細な理論スペクトル計算手法の構築を行い、CARSスペクトルに基づく振動回転温度を再算出すると同時に、より高速8km/s以上で伝播する衝撃波背後でのCARS分光データの取得や、強い衝撃波背後での電離に関する予備計測などを予定している。
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