RFプラズマ発生装置による軽水素プラズマを用いて、SiC材料をスパッタリングし、真空容器内壁に再堆積層を形成させた。その後、真空容器内に重水素プラズマを点火したところ、直ちに重水素濃度が減少し、同時に多量の軽水素の脱離が観測された。分子状水素間の同位体交換反応は、プラズマ放電時の壁温度100℃程度ではほとんど進行しないため、イオン化された重水素と再堆積層表面に存在する軽水素との同位体交換反応が生じたものと考えられる。なお、昇温脱離実験によりSiC再堆積層からの熱的な水素の放出は、300℃から始まることが明らかとなったため、放電中の再堆積層内部からの水素放出は生じない。重水素放電による軽水素脱離が終了した後、真空容器内を空気に曝し、再び重水素放電を開始したところ、初期放出量の50%程度の軽水素が放出された。このことから、再堆積層表面に吸着した水蒸気が重水素プラズマにより脱離、水素と酸素に解離し、この一連の軽水素脱離過程で同位体交換が生じていると考えられる。なお、同様の実験をステンレス再堆積層で行ったところ、SiCの場合よりも速い速度で軽水素が脱離することがわかった。炭素系材料と金属系材料では、同位体交換速度が異なることが確認された。 再堆積層が高エネルギープラズマに曝された場合、再堆積層内部に取り込まれた水素同位体が放出される。従って、同位体交換現象を明らかにする上で、再堆積層内部に取り込まれる水素同位体の定量は重要である。これまで、グラファイト、タングステンでの定量を進めてきたが、新たに、SiC、及びステンレス鋼からの再堆積層中の水素蓄積量を測定した。その結果、いずれの再堆積層も元の材料の水素吸収量よりもはるかに多くの水素を蓄積していることが明らかとなった。このことから、再堆積層が水素プラズマに曝された場合とバルク材料が水素プラズマに曝された場合では、放出される水素量が大きく異なると予測される。
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