本研究ではMg基化合物と硼素の反応によるMgB_2超伝導相の生成において一般的なプロセスであるパウダーインチューブ法(金属管に原料を組み込み線材化する方法)線材の超伝導特性改善を目的に、Mg基化合物をCu添加源とした場合における超伝導特性や組織について検討した。Mg基化合物としてMg_2Cu化合物を使用した。これはMg_2Cuの融点は568℃であり、金属マグネシウムの650℃よりも格段に低いことから、より低温での生成が可能になり、微細なMgB_2結晶粒が得られる。また、同時にMg_2CuからMgCu_2へ相変態し、ナノサイズのMgCu_2がMgB_2超伝導コア中に分散することで磁界中での超伝導特性を向上させるピンニングセンターになる可能性もある。一方、MgB_2超伝導線材の核融合応用を検討する場合、MgB_2超伝導体自体は低誘導放射化特性に優れており有利であるが、線材シース材によってその特性は依存する。従って、低誘導放射化特性の他に加工性、コスト、非磁性、耐中性子照射特性などを考慮する必要があると考えられる。そこで、本年度はMg_2Cu化合物と金属Mgの混合原子比で1at%Cuから10at%CuのCu添加したMgB_2/Ta(タンタル)、Cu(銅)及びFe(鉄)シース単芯前駆体線材を作製した。作製した線材のT_cは金属シース材の種類に関係なく、Cu添加量に対応して向上する傾向が見られ、最大のT_cで36.5Kが得られた。これはMg_2CuからMgCu_2に相変態する過程において清浄なMg成分が放出され、高いT_cのMgB_2相が生成した為と考えられる。磁場中でのJ_c特性は低磁場から中磁場領域(2Tから8T)でより大きな特性改善が見られた。これは高いT_c特性をもつMgB_2相が生成した為と考えている。一方、高磁場領域(10T以上)では、SiC添加試料と同等の特性になり、MgCu_2相がピンニングセンターとして作用していることが分かった。以上のことからMg_2Cu化合物によるCu添加はMgB_2相の超伝導特性を向上させる効果があることが明らかになった。また、最適熱処理条件は金属シース材によって違いが見られ、Taシースにおいて低温生成が良い結果となった。
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