負イオンの消滅反応は、わずか1eVの電子温度上昇で反応断面積が5倍増加し、強い電子温度依存性をもつ。そのため、電子加熱である高周波(RF)プラズマを用いた負イオン源では、従来のアーク放電による負イオン源に匹敵する負イオン電流を実現することは困難と考えられていた。しかし、最近申請者らの研究で、プラズマ電極(低仕事関数表面)近傍で水素原子・正イオンから負イオンを生成する負イオン表面生成反応が優勢な負イオン源では、電子温度が高い場合でも負イオン電流量が減少しないことを明らかにした。 本研究では、負イオンの消滅反応だけでなく、10eV以上の高速電子による水素原子・正イオンの生成反応にも着目し、高電子温度プラズマ中での負イオン生成・輸送過程の物理機構の解明を目的とする。そのため、負イオン表面生成に強く関与するプラズマ電極近傍のプラズマの電子エネルギー分布関数(EEDF)を測定して高速電子成分を定量化し、負イオン電流量との関係を明らかにする。 平成18年度は、負イオン源においてRF(周波数2MHz)プラズマを生成し、種々の放電パワー、ガス圧下において、プローブによりプラズマパラメータを測定し、プラズマ分布を調べた。 平成19年度は、閉じ込め磁石の配置の変更、入力パワーの調整により、EEDFを劇的に変化させて考察を行う。また、同じ放電容器でアーク放電プラズマを生成し、異なる放電形態下でのEEDFと負イオン密度の関係を比較する。これらの結果から、プラズマ中の負イオン生成と輸送の物理過程を考察し、学術的基盤の構築を図る。
|