原子炉圧力容器(RPV)鋼の照射脆化の評価・予測の高度化・高精度化に貢献するために、低銅含有RPV鋼及び鉄基モデル合金の照射硬化挙動やマトリックス損傷形成過程に及ぼすマンガン、ニッケル、クロム、モリブデン等の合金元素の影響について調べた。イオン加速器システムDuETを用いて鉄イオン照射した鉄基二元系モデル合金とRPV鋼(A533B)の照射硬化挙動を詳細に調べ、照射硬化の飽和挙動に対して合金元素の種類と添加量が大きな影響を及ぼすことが明らかになった。特に、鉄基二元系モデル合金におけるマンガンとニッケルは、照射硬化の飽和量を鉄-銅二元型モデル合金以上に増加させるとともに、0.1dpa程度で飽和する鉄-銅合金と異なり、飽和までより高い照射量(1dpa以上)を必要とすることが示された。また、鉄-マンガン二元系合金における照射硬化の飽和挙動が純鉄等と著しく異なる理由として、モデル合金の照射硬化の主要因であるマトリックス損傷(この場合、微小な転位ループ)の核形成が、マンガン原子による点欠陥捕獲によって促進されているためであると示唆される。昨年度に得られたイオン照射研究におけるA533B鋼の照射硬化の照射量依存性はFe-1.5Mn合金のそれとよく一致していることからA533B鋼におけるMn影響が示唆されたが、今年度実施したFE-TEMによる微細組織観察によって、両材料において微細な転位ループが形成していることを確認することが出来た。これらの結果より、今後は、実機環境に近い損傷速度条件において、マトリックス損傷形態に及ぼすマンガン影響或いはニッケル影響を詳細に調べることが、高経年化低銅含有RPV鋼の照射硬化・脆化機構を明らかにする上で重要であることを提言する。
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