今年度は、γ線・電子線、イオンビームによるプロセスを最適化することによって高耐久性のフッ素系高分子電解質膜を作製するとともに、それに基づく単セルスタックの制作と水電解を行った。具体的には以下のとおりである。 まず、架橋ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を基材としたγ線前照射によるスチレンのグラフト後、クロロスルホン酸溶液を用いてスルホン化することで、イオン交換容量を3.6ミリ等量/gに制御した電解質膜を合成した。また、得られた膜を白金触媒担持の多孔質電極で挟み、実用規模により近い最大電極面積25cm^2の膜-電極接合体(MEA)を作製した。このMEAを組み込んだセルに相対湿度95%の水蒸気を供給して水電解を行い、温度50〜80℃下で電流-電圧プロットを得た。 次に、電極反応と膜内輸送をモデル化し、このモデルに基づき電流-電圧特性を解析した。電極反応として、バトラー-フォルマー式に基づくアノードとカソードの活性化過電圧、一方の膜内輸送はオーム抵抗過電圧からなる式で電流-電圧プロットのフィッティングを行った。その結果、架橋PTFE電解質膜を用いた固体高分子型水電解では、膜-電極界面の抵抗とアノード交換電流密度が性能に影響を及ぼす重要な因子であることが明らかになった。特に、高電流での水電解(すなわち大量の水素製造)を十分な効率で行うには、膜と電極の熱圧着などによってオーム抵抗過電圧を低減することが先決であることも示唆された。 以上の結果を受けて、オーム抵抗過電圧を決定づけるプロトン、水をはじめとする物質の輸送特性を検討するため、実運転状態を想定した試験装置を購入、準備した。
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