日本の南西諸島に生息するトゲネズミ2種(Tokudaia osimensisおよびTokudaia tokunoshimensis)はY染色体をもたず、雌雄ともにX0型という、極めて稀な性染色体構成をもつ。雌雄ともにX染色体が1本ずつしかないため、トゲネズミには遺伝子量補償の必要性がないと考えられるが、その真偽は明らかではない。本研究は、X0/X0型アマミトゲネズミにおいてX染色体不活性化機構がどうなっているのかを探る目的で、以下の研究を行った。 X染色体不活性化機構に必須と言われているXist遺伝子のトゲネズミホモログを単離するため、マウスのXist遺伝子の配列をもとに、エクソン4から5にかけてdegenerate PCRプライマーを設計し、トゲネズミのゲノムDNAから約600bpのXist配列を単離した。得られたDNAクローンをプローブとして、トゲネズミ染色体にFISHマッピングを行った結果、トゲネズミのXist遺伝子は、一本のX染色体上にマップされた。また、real-time PCR法により、トゲネズミゲノム中におけるXist遺伝子のコピー数を定量した結果、ハプロイドゲノムあたり1コピーであることがわかった。また、トゲネズミXist遺伝子配列のエクソン4および5においてプライマーを設計し、メスの肝臓、心臓、培養繊維芽細胞、オスの精巣から得られたcDNAを鋳型としてRT-PCR法を行った結果、イントロン部分が除かれた増幅産物が得られた。しかし、得られた増幅産物が大変微量であるため、仮にX染色体不活性化を行うために発現しているとしても、X染色体全体を不活性化するには至らない発現量であると考察された。あるいは、トゲネズミではすでにXist遺伝子が必要でなくなり、ゲノム構造が壊れ惰性的に発現が行われている可能性が考えられた。
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